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北朝鮮とアメリカの関係が一触即発の状態である。(2017.10.1現在) 北朝鮮が一方的な悪者のようにあちこちで表現されているが、本当にそうなのだろうか?

この本に書かれている開城工団とは、開城工業地区内にある工業団地だ。開城工業地区はその構想が2000年に発表され、2003年から起工、2004年に開業した。北朝鮮と韓国の合同事業だった。以来操業を続けたが、2013年に一度操業を停止するも同年中に再開する。この本に書かれているのは2015年頃までだが、残念ながら2016年2月に北朝鮮の弾道ミサイル実験を理由に運用が停止された。

『開城工団の人々』著者キムジニャンが著書の冒頭でこんなことを書いている。

韓国国民はおそらく理解できないだろう。敵対的な分断が強要する「北朝鮮無知」の悪循環の中では「死んで生き返っても理解できないだろう」というのが私の結論だった。敵対的な分断のせいである。敵対的な分断は北朝鮮を「構造的無知と体系的歪曲」の領域にしてしまった。それで北朝鮮をまともに存在している、あるがままの姿で見ないで、我々の基準と価値観、我々式のやり方であれこれ批判し、非難し、揚げ足を取り、嫌悪し、悪口を言い、結局「悪いやつら」と規定してしまう。「違い」は「間違い」と認識されてしまう。
 
韓国ではまともな北朝鮮専門家を探すのが大変難しい。扇情的で偏向した、真理と真実を軽く見るような汚染された専門家たち、事実は何も知らない、専門家ではない専門家たちが横行している。北朝鮮問題は自分勝手に小説のように話しても誰も問題を提起しない、むしろ奨励される領域だ。洗練された非難さえ上手にしていればいい。誰も責任を問わない。

ひとつの国をひと言で表現するのは無謀というものだろう。それは、もし「日本をひと言で表現しろ」と言われれば困るのと同じだ。ところが他国の場合は、あまり知らないからこそひと言で済ませてしまうのではないだろうか? そう言っている僕自身、北朝鮮のことはあまり知らない。しかし、この韓国によって出版された本を読み、なるほどなぁと思うことがたくさんあった。

まず、この本の著者はノ・ムヒョン大統領の時代、五年間、対北朝鮮政策を立案、執行した「北朝鮮・統一問題」を専攻した学者であり、KAISTという韓国の国立大学の未来戦略大学院の教授であるということだ。実際に開城工団で四年間、対北交渉も担当した。そういう人が書いた本であるからこそ、読むべき点はたくさんある。たとえば、この本は抽象的で政治的な言葉が並ぶのではなく、実際に開城工団でどんな話がなされているのか。会って話した北朝鮮の人たちがどんなことを言ったのか、そんなことが多く書かれている。

これを読んでいて不思議な感覚に陥った。それは、北朝鮮の人たちはまるで、かつての大日本帝国の頃の日本人のようであり、韓国の人々は現代の日本人のように思えてくることだった。この感覚を得ただけで、この本を読んだ価値があった。考えてみて欲しい、もし戦前の日本人と戦後の日本人が時を超えて会ったら、どんな話をするのだろうかと。互いにそのときの日本を正当化し、きっとうまく話ができないのではないか? それでもその違いを乗り越えて会話するとしたら、どんな話になるだろうか?

戦後の教育によって僕たちは、戦前の日本は間違ったことをしてきたと教え込まれた。しかしそれは「間違っていた」と言い切れるほど明確な間違いだったのだろうか? もし日本が間違いだったとしたら、世界中に蔓延していた帝国主義は間違いではなかったのか? そういう微妙な問題を含んでいる。

戦前にタイムスリップした僕が大日本帝国の青年に会い、「わたくしは天皇のため、臣民のため、さらに世界平和のため、鬼畜米英を打ち倒し、平和な国家を守るため、この一命を捧げる所存でございます」と言われてなんと言い返せばいいのだろう? 戦前の環境にひとり放り込まれたら、まわりの状況に流される以外の何ができるだろう? それに似たことがいまの北朝鮮に起きているのだと思う。

考え方が違うだけで、生き方が違うだけで、しかも、数十年前までは自分の親や祖父母たちが似た境遇にあったことを知っているにもかかわらず、それがダメだと言い切るのにはかなりの抵抗がある。その国を攻撃して破滅させようとはとても思えない。

大日本帝国に生きていた人々はきっと優しい人が多かっただろう。それは簡単に推測できる。それと同じように北朝鮮に生きる人々にも、似た優しさはきっとある。その一片を「開城工団の人々」で読むことができた。どんなに空砲のミサイルを撃ってきても、被害がないように気を使っているように思える北朝鮮を、空威張りの言葉を根拠に、叩き潰してもいいものだろうか? それは戦前の日本がしていたことに似てないだろうか?

いまだからこそ、この本を読んで欲しいと思う。

つなぶちようじ

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